2011年3月31日木曜日

胎児貧血だったのは、昨日インフルA型が影響したからなの?

いつものように、職場に出勤すると、経産婦さん、今回二人目。
前回は3000グラムの元気な女の子、ノーリスクで出産経験ありでした。

「一緒にがんばろうねー!!」

「私、前もそうでしたけど、ぐっと来たらすぐ生まれるんです。今回も大丈夫だと思いまーす」

なんとも心強いお言葉。

内診所見は子宮口6センチ、頚部展退80パーセント、赤ちゃんを包んでいる膜、胎胞も徐々にパンパンになりつつあり。
胎児の頭はまだやや高めのステーションマイナス1、でも頚部の進展も良くなり、とても柔らかい。

いつも思いますが、女性の膣内も熟化が進んでくると、とても柔らかく、暖かくなってきます。
ふんわりした感触を産道全体に感じます。

「安産できそうね」

心の中で少し安心ムードが漂いますが、お産はコレからが勝負。
どんどん狭い所に胎児は突入していくのですから、最後迄油断大敵!

この産婦さん、
「昨日とても熱が出た。38度台の熱が朝からあったので、近くの内科を受診し、そこでインフルA型と診断を受けた」
との事。
おそらく、リレンザという治療薬をもらって、口からシュッ!と吸い込んで熱が引いているのでしょう。
予防接種も受けているとの事で、やや安心しました。

モニタリング上の所見は、やや細変動少なめだが、リアクティブ取れない事もない…という程度。

なんせ入院からまだ40分だから、モニタリング続行中です。

そんな事をうだうだと考えていると、

「あっ来ました!きばりたい〜」との訴え。
するとすでに胎胞が見え隠れしています。

胎胞の後ろには期待通りしっかりと頭がついて下りて来ています。

私は人工破膜は嫌いです。
普通はしません。
膜は膜の役割があるのです。

今回は胎児の頭を連れておりてくるという大役をしてくれています。
同時に、正しい胎位胎向に誘導するという役割もあります。

とてもお利口なのです。

間もなく、パン!と自然破水、破水前後にやや一過性の除脈みられましたが、コレくらいは問題ないと考えます。

ところが、

予想に反してその羊水が、なんとドロドロの緑色どころでは無いのです。
サラサラの黒っぽい胎便のような色。

「何コレ?」おもう間もなくベビーはつるりと生まれました。
その後羊水は血性でしたが、大きなコアグラは出ていません。

私の感覚では、早期剥離にちがいないが、胎児娩出と同時に剥がれたのでは?と思いました。


そのベビーですが、筋緊張が少し弱いけれど、元気に泣いています。
動脈血のPH 7.34 BE−1.5 特に何もありませんが、皮膚全体の色が悪いのです。白っぽいのです。

「元気そうだけど気になるから保育器に入れて様子みましょう。」
ということになりました。

それから1時間後、手足をバタバタと動かしています。
サーチュレーションも90台後半で,クベース内の酸素は25パーセントですが、その中で呼吸も安定しています。肺雑音もありません。
でもなんか変、皮膚全体に白すぎる。おかしい。
この活気なのにこの色、まるでチアノーゼ。でもSPO2は悪くない。

再度採血することにしました。

その値はPH7.O Hb9.0 貧血状態でした。

その子は直ちに指定病院に搬送され治療を受けています。

分娩の管理上、この胎児貧血は予測できなかったです。
モニター上もサイヌソイダラス波形は出ていません。

出生後の動脈血もなんら異常は認められないのですから、このケースは通常の分娩方法を選択した事は正しかったのでしょう。

ガイドラインでは、羊水混濁があるからといって出生後は酸素投与する必要なく、出生児の全身状態みてを判断するべきとあります。

このケースは、アプガールスコアで言えば7点です。

筋緊張マイナス1とカラーでマイナス2点です。
ただその後、トントンと回復しているのでやや油断したといえます。カラーは戻りませんでしたが…

その後胎盤をチェックしましたが、胎盤に血腫が付着しておらず、早期剥離兆候も無く特にグレードが悪くもなく、きれいでした。
また臍帯の損傷も認められず、付着部位も正常位置です。
この分娩の出血量は450グラム。その後2時間迄の出血も500グラム以内にとどまりました。
(アトニンの点滴を産後施行しましたので)

頭の中で、色々な事が繋がらない、首を傾げる事のいくつもあるお産になりました。

母体は通常より速い4日目に、赤ちゃんはその後治療にて貧血改善しています。
















  

あ〜びっくりした!頭位の臍帯脱出でした。

はじめまして、助産師のTAN です。現在日雇いです。

数ヶ月前、とてもレアなケースですが、ラッキーでもあったお産をご紹介します。

寒い夜でした。泣く子も黙る丑三つ時、1本の電話が鳴りました。
「破水したみたいです。お産はじめてです。」とのこと。

その30分後、その方はご主人と一緒に歩いて来院されました。

「お待ちしていました〜。痛みはでてきてますか?」と、お聞きすると、
「はい!少しだけ… 赤ちゃんも動いています。」と満面の笑顔。

この様子だと、分娩第一期始まってなさそう…と思い、まず、診察をする事にしました。

内診するため、仰向けになっていただき、そろっと指を入れてみると、何か変!!いつもと違うのです。
通常、規則的に陣痛が始まる前に破水をした初産婦、羊水もあまり出ておらず、胎児が動いている、という前情報で、期待する内診所見は、子宮口がまだお尻の方を向いている後方に位置し、開き具合も1−2センチ程度、胎児の頭も指が届く程度と想像します。

ところが、その子宮の口は、指をまっすぐに入れた前の方向にポッカリと開いていました。約4センチですが、頚部の展退は60パーセント、硬さもあります。
不思議な事に、普通はその子宮口を覆うように先進している頭がくっついているのですが、頭は完全に浮いている状態で、かろうじて一部が子宮口から数ミリ上に触れました。
もっと奇妙だったのは、その開口部が、やたらボコボコしていること。

「子宮の入り口にポリープあると言われた事ありますか?」とお聞きすると
「一度もない」との事。

なんだかドキドキしてきました。
そうなると最悪の事を想像します。 そう、頭位の臍帯脱出…

その膨らみをそっと触り拍動を探ると、しっかりありました。間違いない。臍帯拍動です。1分間に50から60回くらいの速さ。

その指を入れたまま、ナースコールを押し、一緒に勤務している助産師に来てもらいました。

「右で、拍動触れます」と伝えると、
「臍帯脱出!」彼女の顔色も変わりました。
とりあえず、一緒に腹壁上からドップラーで心拍を確認すると、そのビートも私が今触っている拍動と同じです。
もう間違いありません。

それからは、竜巻が舞い降りたかのよう。
少ない夜勤スタッフ全員、すべてやりかけの仕事は中断し、帝王切開の用意です。

私は、その拍動が止まらない事を祈りながら、これ以上臍帯が圧迫されないように、頭のある右を下にして横向いてもらいました。それで、浮いている頭が少しズレたようで、拍動が徐々に戻り、80回から100回くらいまで回復してきました。

長い長い時間でしたが、実際は20分しか経っていません。
何度か、軽い陣痛があり、そのつど、すうっと胎児の頭が下りて、臍帯を圧迫していましたが、完全に固定するところまではいかず、心拍は60から100回を変動していました。

今回は、とても敏速な準備で、すばやく人も集まり、奇跡的に3200グラムの元気な女の子、アプガール9点で生まれました。

あ〜よかった…本当によかった。

今回私は、何が始まっているのか、どういう状態ですすんでいるのかを、患者さんとご主人にタイムリーに説明する余裕が
全くありませんでした。

「ごめんなさい!後で状況を説明します」とご主人に告げるのがやっとでした。
これは、本当はとても良くない対応だったな〜  反省です。



その7日後、元気な赤ちゃんを抱いて、ご夫婦そろって退院されました。